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AFLPを用いた種間系統関係の解析

hybridization

植物の種形成過程には種間交雑と倍数化が密接に関っていることが知られている。エンレイソウ属は日本を含む東アジアと北米に分布するが、その大部分を占める北米の種が全て2倍体であるのに対し、日本産エンレイソウ属では種間交雑と倍数化を伴った種分化により、2,3,4,6倍体種で構成される。これまで日本産エンレイソウ属における種分化の過程は染色体研究によって推定されてきたが、存在が確認されていない種を祖先種として仮定していること、また、近年発見された新種に関しては推定が行われていないなどの問題点があった。本研究はAFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)法を用いて、現存する日本産エンレイソウ属の系統関係を再検討することを目的とした。解析の結果、日本に生育するエンレイソウ属の系統関係は、現存する種間での雑種形成と倍数化で説明できることが明らかになった。

Kubota S, Kameyama Y, Ohara M (2006) A reconsideration of relationships among Japanese Trillium species based on karyology and AFLP data. Plant Systematics and Evolution 261:129-137. [PDF]


オオバナノエンレイソウにおける繁殖様式の進化

T. camschatcense

両性花を顕花する植物の多くは、自殖(自家生殖)を避け、他殖(他家生殖)を促進する機構を備えている。例として、柱頭における自他認識反応から自家花粉を選択的に排除する、自家不和合性(self-incompatibility: SI)が挙げられる。その一方で、自殖を許容する、自家和合性(self-compatibility: SC)の植物も存在する。モデル植物を中心としたゲノム解析と系統解析から、SCはSI機能が崩壊することで一方向的(SI→SC)に進化すると考えられている。しかしながら、SC→SIを示す系統学的研究も存在し、進化の方向性やその過程に関して未解明な部分も多い。オオバナノエンレイソウは種内にSC集団とSI集団が存在するため、SCとSIという繁殖様式の進化を研究する上で適した材料と言える。

自殖性の適応的意義

一般的とされるSI→SCの進化が、オオバナノエンレイソウにも存在したとすれば、自殖性(SC)に何らかの適応的意義があって他殖性(SI)から進化したことが予想される。そこで本研究は自殖性のメリットと考えられている、「繁殖の保障」や「遺伝子伝達の利点」がオオバナノエンレイソウのSC集団で発現しているか、交配実験とマイクロサテライトマーカーを利用した生態遺伝学的解析を用いて調査した。解析の結果、SC集団における自殖性に適応的意義は見当たらず、むしろ先行する自家受粉と強い近交弱勢によって、他殖による繁殖成功が阻害されていることが明らかになった。

Kubota S, Kameyama Y, Ohara M (2006) Characterization of six microsatellite markers in Trillium camschatcense using a dual-suppression-polymerase chain reaction technique. Molecular Ecology Notes 6:1135-1137. [PDF]

Kubota S, Kameyama Y, Hirao AS, Ohara M (2008) Adaptive significance of self-fertilization in a hermaphroditic perennial, Trillium camschatcense (Melanthiaceae). American Journal of Botany 95:482-489. [PDF]

自家和合性からの自家不和合性の進化

調査したSC集団は自殖能力を有するがために“損”をしており、他殖に特化したほうが“得”な状況であったことから、オオバナノエンレイソウでは定説とは逆の、自殖性から他殖性への進化(SC→SI)が示唆された。したがって、一般的とされるSI→SCという進化経路について、オオバナノエンレイソウでは再検討する必要が生じた。本研究は複数のSC、SI集団を対象に、葉緑体DNA多型と核DNA上のマイクロサテライト多型を用いた系統地理学的解析から、この種における繁殖様式の進化的方向性を決定することを目的とした。解析の結果、先行研究を支持するように、オオバナノエンレイソウにおけるSI集団は、単系統であり、SC集団から派生していることが示された。

Kubota S, Ohara M (2009) The evolution of self-compatible and self-incompatible populations in a hermaphroditic perennial, Trillium camschatcense (Melanthiaceae). Journal of Plant Research 122:497-507. [PDF]

オオバナノエンレイソウにおける自家不和合性の生理的機構

SC and SI

エンレイソウ属におけるSIは北米の種でも報告されている。北米の種では自家花粉を排除する確率が集団間で異なり、"leaky"なSIであることが知られているが、日本に存在するオオバナノエンレイソウは完全な自殖能力を示す集団(SC集団:写真左)と完全に自家花粉を排除する集団(SI集団:写真右)が明確に分かれている。本研究は走査型電子顕微鏡を使った柱頭上の花粉の観察、蛍光顕微鏡を使った花粉管伸長の観察等を行うことで、オオバナノエンレイソウのSI反応の生理的機構明らかにすることを目的とした。得られる結果は、北米の種と比較することでエンレイソウ属における繁殖様式の進化を推察すると同時に、オオバナノエンレイソウにおけるSI遺伝子の単離にも応用が期待される。

[現在進行中]

雌性個体の発見

male sterile

オオバナノエンレイソウは両性花を顕花する雌雄同株植物として認識されている。しかしながら、野外調査を行う中で、複数の集団において正常な両性個体に混在して、雄蕊が矮小化した個体が存在することを発見した。先行研究からSC集団は、他殖に適した環境であるため、潜在的に雌性が生じ得る状況だった。本研究は雄蕊矮小化個体が雌性と見なすことができるのか、その性機能、繁殖成功、集団間での出現頻度を調べることで検証した。調査の結果、雄蕊矮小化現象は個体の雄機能を完全に不稔化する、遺伝的に固定された形質であることが明らかになった。また、これら雌性個体はSC集団中で他殖に特化し、近交弱勢を回避することで、両性個体を上回る雌成功を得ていた。この結果を支持するように、雌個体の出現頻度はSC集団で高く、近交弱勢が生じないSI集団ではほとんど出現しなかった。

Kubota S, Ohara M (2009) Discovery of male sterile plants and their contrasting occurrence between self-compatible and self-incompatible populations of the hermaphroditic perennial Trillium camschatcense. Plant Species Biology 24:169-178. [PDF]

雌性個体の頻度と集団の繁殖

female frequency

一般的に自殖性は遺伝的多様性の減少を促進すると考えられ、オオバナノエンレイソウでもSC集団の遺伝的多様性が概してSI集団よりも低いことが示されている。一方、新たに存在が明らかになった雌性個体は、その高い繁殖能力から、出現頻度によってSC集団の繁殖様式や遺伝的多様性に多大な影響を与えることが予想される。本研究は雌の出現頻度が異なる、22のSC・SI集団において、出現頻度に対する他殖率・近交係数・遺伝的多様性との関連性を調査した。その結果、雌の出現頻度が低いSC集団は自殖に依存した繁殖を行い、低い遺伝的多様性を示した。その一方で、出現頻度が高いSC集団は両性個体が雄として機能することで、機能的な性的二型性が生じていた。驚くことに、これらの集団はSCであるにも関らず、SI集団と同等の、高い遺伝的多様性を維持していることが明らかになった。


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